X線自由電子レーザー(XFEL)が生成する超高強度・短波長のX線パルスは分子を瞬時に多価イオン化し、その正電荷間の反発によるクーロン爆発を誘起する。その機構の理解は、解離イオンの運動量が爆発直前の分子構造を反映することを応用した分子イメージング法の確立などに寄与すると考えられる。本研究では、様々な現象・条件をモデル化して取り込むことにより、XFEL誘起クーロン爆発の反応動力学モデルを構築し、5-ヨードウラシル、ジヨードメタンなどのヨウ素含有分子やC60フラーレンに適用した。共同研究者の実験と比較しながらこの動力学モデルの有用性を検証すると同時に、クーロン爆発の機構について詳細な議論が可能になった。
DNA損傷の中でも修復が困難な二本鎖切断は、主に高エネルギーのOHラジカルによって誘起されることが実験から示唆されている。OHラジカルによるDNA鎖切断の機構を解明すべく、DFTB法を用いて反応動力学計算を行った。水から生成するOHラジカルの運動エネルギーを非断熱動力学法を使って見積もった後、水に囲まれた二本鎖DNAにラジカルを接近させるシミュレーションを行った。高エネルギーラジカルほど拡散が速く、DNAに接近して糖の水素を引き抜いた直後、連続的に糖-リン酸基間のP-O結合が切れた。二つ以上のOHラジカルが二本の鎖にそれぞれ衝突することで二本鎖切断が起こることが確認された。
多サイクル、および、単一サイクルレーザーパルスによるレーザーアシステッド電子散乱(LAES)過程における電子の衝突時刻をアト秒精度で決定する手法を提案する。LAES過程を半古典論近似で取り扱うことによって、散乱電子のエネルギーと散乱角度から、電子が標的原子・分子に衝突した時刻を決定できることを示した。そして、多サイクルレーザーパルスを用いた Xe原子によるLAES信号の実測データを用いて衝突時刻を求めた。また、単一サイクルレーザーパルスによるLAES過程の数値シミュレーションによって、H2+分子の構造変化をアト秒の時間分解能で追跡できることを示した。
光格子中の冷却原子を特定のバンドに選択的に励起して波束を生成し、続いてその波束を量子制御する技術が関心を集めている。調和振動子トラップ中にロードした冷却原子に対し、光格子パルスを与えることで、90%を超える高効率で励起波束を生じさせる実験的方法が報告されている。1次元単色光格子ボーズ系で実現された実験を数値シミュレーションで再検討し、1次元二色光格子ボーズ系へ拡張して、第1および第2励起バンドへ選択的に励起する方法を議論する。二色光格子系では光格子の相対的な高さの制御で励起バンドのギャップをコントロールできる。発表では主に第1-第2励起バンドギャップが消失する場合(Dirac point近傍)の波束の励起と動力学について考察する。
波動関数の展開に際して、要求される展開精度εを達成するように位相空間のvon Neumann latticeセル上に配置したガウス基底を必要なだけ選ぶ手法を開発した。
本手法では、その展開係数の時間発展によって波束の伝搬を記述し、波動関数の時間変化がある閾値δ(>ε)を超えた時に新たな基底の組で再展開する。この方法を1次元から3次元のモデル系に適用して,トンネル時間およびその方向を正確に評価できることを確認した。また、本手法を拡張してクーロン系の電子ダイナミクスに適した基底配置を開発し、強レーザー場と相互作用する水素原子の電子ダイナミクスに適用した。
コリニアレーザー分光法を用いることで超微細構造間隔や同位体シフトの高精度測定が可能で、原子核の荷電半径や電磁モーメントを系統的に測定することができる。我々は、理研SLOWRI施設から得られる低エネルギーRIビームにコリニアレーザー分光法を適用するために、現在オフライン試験装置の立ち上げを進めている。まずは試験用に用いるイオンとしてBa+を選択し、そのD2線に相当する455 nm外部共振器型半導体レーザーを製作し、高精度波長計を用いたレーザーの周波数安定化試験を行っている。また、難揮発性元素の分光を目指し、レーザーアブレーションを利用したイオン源を開発しているので、これらの進捗状況を報告する。
我々OROCHIグループでは、加速器を用いて生成された不安定核原子の核構造研究のため、超流動ヘリウム(He II)とレーザー・ラジオ波/マイクロ波二重共鳴法を組み合わせた核分光法の開発を行っている。この手法では原子を偏極させる必要があり、これまでにRb等の一電子系原子について光ポンピング法による偏極生成に成功しているが、さらに適用可能な核種を増やすため電子準位構造の複雑な13族原子のInに対する偏極生成を目指す。本研究ではHe II中In原子の励起光源として内部共振器型パルスTi:Saレーザーを開発し、In原子の偏極生成に向けた第一歩として蛍光観測実験を行ったので、その結果について報告する。
時間分解X線回折像は時間・空間分解能に優れており、分子ダイナミクスの測定に有用な手段である。気相分子に適用すると、配向平均により分子構造の異方性を反映した情報が失われてしまう問題がある。配向平均を回避するためには、分子の各慣性主軸を空間固定系に対して平行に揃える整列制御が必要となる。本研究ではSO2分子の3次元整列度合いを効果的に高めるレーザーパルスを、我々が開発した非共鳴の最適化シミュレーションにより数値設計する。また、その最適パルスにより整列したSO2分子に対して時間分解X線回折を適用すると、どのような回折像や分子の構造情報が得られるのか、複数の整列方向についてシミュレーションする。
光駆動分子モーターは異性化を利用し一方向回転を実現したが、光反応の機構を探る上で非断熱遷移の考慮は欠かせない。surface hopping法は断熱ポテンシャル面を走る古典トラジェクトリに遷移確率を与えて他のポテンシャル面へのホップを起こすことで波動関数の分岐を再現する。近年、1次元非断熱問題の完全解である朱-中村理論を多次元に拡張して取り入れることで、計算負荷の大きい電子状態間非断熱結合の評価を不要にした新しいsurface hopping法が提案されたが、ポテンシャル形状によっては遷移確率を誤る場合があった。我々はこの問題を克服した改良法を開発し、分子モーターの光異性化機構を解析した。
In order to investigate the relation between the entanglement and the coherence in molecular photoionization, we solved the time-dependent Schrödinger equation numerically for ionization of H2 by a ultrashort (0.4 - 6 fs) pulse in the XUV wavelength range (20 - 90 nm) and evaluated the degree of the entanglement between a photoelectron and H2+ and the coherence among the vibrational states of H2+. By varying the wavelength, pulse duration, and intensity of the XUV pulse, we confirmed that both the entanglement and the coherence depend strongly on the pulse duration of the ionizing laser pulse while both of entanglement and coherence are insensitive to the variations in the wavelength and intensity of the XUV pulse. We found that the laser pulse duration increases, the degree of photoelectron-ion entanglement increases while the vibrational coherence decreases.
超短レーザーパルス(~5 mJ, ~40 fs, 1 kHz, 795 nm)をヘリウムガスセルに集光し、20nm (41次)から9.6 nm (83次) の極端紫外領域の高次高調波を発生して,ニッケル製回転楕円ミラーを用いて集光した。ナイフエッジスキャンを用いて集光系を測定したところ、集光径の半値全幅は350 x 370 nmであった。この結果から、本回転楕円ミラーを用いて、入射ビームサイズ(1 x 1 mm)に対して,高次高調波のスペクトル中心波長15 nmにおける回折限界まで集光できていることがわかった。