スピン軌道相互作用(SOC)をもつボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)は、11年に実現して 以来、実験・理論ともに盛んに研究が行われてきた。また、ダイポール相互作用(DDI)を持つBECについても様々な実験が行われ注目を集めている。本研究ではこの2つの効果を考慮した、葉巻型の調和ポテンシャル中におけるスピン1BECの基底状態について調べた。SOCが強い場合は、縞模様や平面波、DDIが強い場合は、ポーラー・コア渦や螺旋構造など、それぞれの相互作用においてよく知られている状態が得られた。一方、SOCとDDIの強さが近いときは、この系特有のねじれた基底状態が得られた。
食品工場などでは髪の毛などの低密度な有機物を高速に検出する手法の開発が望まれている。この研究では、物体表面に高出力短パルスレーザーを照射し、その表面にガス層を作り、そこに比較的大きな吸収断面積を持つ中赤外レーザーをプローブ光として入射し、検出する新しい手法「レーザーガス化分光法」を開発し、異物を高感度かつ高速に検出することが目的である。また、ガス分析という観点から、キャリヤーガスを用いるガスクロマトグラフィーではできない、大気中でのガス化した物質の成分分析ができ、身近な環境下における固体のガススペクトルの測定が可能になり、新しい物性研究や化学分析手法の確立に繋がることが期待される。
我々は低収量不安定核の核構造研究を目的に、超流動ヘリウム(He II)中での原子特有の性質とレーザー・ラジオ波(RF)/マイクロ波(MW)二重共鳴法を組み合わせた核分光法を開発している。これまで104 pps程度の低収量の核種に対して超微細構造間の遷移に対応するMW 共鳴の観測に成功している。しかし、信号強度は小さく、より低収量な核種に適用するために共鳴強度の強化が必要である。そこで MW 共鳴強度の MW及びレーザーパワー依存性に着目し、予備実験としてHeガスを封入しRb気体セルを用いてMW 共鳴強度が増大する測定条件を調査した。実験結果を基に、He II 中におけるMW共鳴強度のレーザーパワー依存性や加速器実験における測定条件の最適化について検討する。
我々は、超流動ヘリウム(He II)中で圧力と温度を独立変化させることが可能な環境を実現しその環境下でレーザー・ラジオ波/マイクロ波二重共鳴法を適用することで、ヘリウムの圧力変化が及ぼすゼーマン副準位間隔や超微細構造間隔への影響を観測することを目指している。通常,圧力と温度は対応関係にあり、それぞれを独立的に変化させることは困難である。そこで、He II環境下で圧力変化可能な機構を有し、かつ導入原子のLIFを観測することが可能な機構を有する容器の開発を行っている。更に、レーザーアブレーション法による可変圧力容器内への原子導入機構の開発も行っている。今回、可変圧力容器及び原子供給システムの開発について報告する。
It has been widely accepted that a uniformly accelerated observer in the Minkowski space-time perceives the vacuum state as a finite-temperature state. This effect, known as the Unruh effect, is one of the fundamental aspects of relativistic field theory in curved space-time. There were many theoretical studies how to simulate the Unruh effect using non-relativistic systems. In this presentation, we investigate possibilities of simulating this effect in the Bose-Einstein condensate.
To accomplish it, we analyze radiation spectra arising from accelerated point-like impurities in the homogeneous condensate. The Planckian spectrum is obtained for a special accelerated motion, which is shown to be unphysical. Non-Planckian spectrum is found in the case of a uniformly accelerated impurity. We then propose a proper way to simulate the Unruh effect based on this physical system.
極微弱光領域での光制御では、光子―光子間の量子相関を考慮することが、本質的に重要となる。この様な量子相関は「量子もつれ」として知られているが、従来の光計測技術の基礎を成している波動光学理論の枠組みでは、この「量子もつれ」を取り扱うことは出来ない。そこで、量子光学理論に立脚した光計測技術の開発に取り組むことで「量子もつれ」の効果を含んだ極微弱光領域における新しいフォトニクス研究としての展開が期待できる。
本研究では、周波数量子もつれ状態にある二光子の周波数領域分布と時間領域分布とを測定し、比較を行うことで、周波数量子もつれ状態のように強い量子相関を持った光子系に特有のフーリエ二重性を実証した。
量子情報通信分野への応用を目的とした量子もつれ光子の研究が盛んに行われ、その生成及び検出手法に関して多くの報告がなされている。中でも量子状態トモグラフィは多光子状態の密度行列を再構成する評価方法として広く用いられている。密度行列には量子相関の情報が含まれることから、量子相関と物質中の量子状態との対応を明らかにすることで、半古典近似を超えた全量子論的な光と物質との相互作用の研究への展開が期待できる。
本研究では量子光学測定の分光計測への応用を念頭に、CuCl単結晶中の励起子分子状態より生成された量子もつれ光子の量子相関の評価を行った。その結果、励起光の照射径の減少と共に量子相関が強まる傾向を見出した。
近年、中性原子・イオン・超伝導素子などを用いて量子多体系を人工的に再現し、実験的にシミュレートする量子シミュレーションに関する研究が注目されている。我々は、ホログラフィックトラップ中のリドベルグ原子を用いて量子シミュレータの開発を行っている。この系の特徴は、個々の原子の観測・制御が可能で、さらに任意の原子配置を実現可能な点が挙げられる。本シミュレータの特徴を生かし、三角格子などの幾何学的フラストレーションを持つイジングスピン系や1次元・2次元中のスピン輸送のシミュレーションを目指す。
本発表では、2~4個の少数原子系および15個の系におけるスピン相関生成の実験を行った結果について議論する。
現在の光の時間波形制御は古典的な波動光学に基づいており、非古典的な性質である量子もつれの効果を利用した制御はほとんど行われていない。古典的な制御は、時間-周波数領域における一次元のフーリエ変換の関係に基づいているが、量子相関を持つ二光子の場合では二次元のフーリエ変換に基づく制御が必要とされる。そのため、二光子のスペクトル-位相が自在に制御できれば、古典波動光学では実現不可能な二光子時間波束を作り出せる。本研究では、非線形結晶内で励起光を往復させることにより、自発パラメトリック下方変換により得られる二光子のスペクトルと位相を同時に変調する手法を考案し、その実証実験を行った。
我々は加速器施設を用いて二次ビームとして得られる生成率の低い不安定原子核の核構造研究に向けて、超流動ヘリウム環境下に置かれた原子の示す特徴的な性質に着目した独自のレーザー核分光法の開発を行っている。
これまでに毎秒104個の84-87Rbビームでレーザー誘起蛍光とレーザー・RF二重スペクトルの観測に成功している。しかし、ノイズとなるレーザー迷光の除去が不十分であり、これが生成率のより低い核種への適用を困難にしている。
そこで、迷光の除去率を上げるためにモノクロメーターを導入した新しい蛍光検出系を開発した。Rb封入ガスセルを用いた性能評価によれば、原理的には迷光を8桁程度除去することが可能である。当該システムをビーム実験へ導入し、原子からの蛍光検出を行った。
光子の軌道角運動量の量子もつれ合いの検証のためには、異なる軌道角運動量状態を重ね合わせ状態で検出する必要がある。本研究では軌道角運動量状態検出用のホログラムの中心にある欠陥を光軸からシフトするホログラムシフト法によって軌道角運動量重ね合わせ状態を検出する。もつれ合い状態を構成する二光子の両方にホログラムシフト法を適用する場合、欠陥位置を方位角方向に走査したときの同時計数確率の変化は正弦関数から外れると期待される。そこで本研究では、ホログラムシフト法による軌道角運動量もつれ合い光子対の特性測定について、実験パラメターと同時計数確率の振る舞いとの関係をシミュレーションによって明らかにした。
テラヘルツ波アシステッド電子散乱過程を利用したフェムト秒時間分解気体電子回折法を考案した。塩素分子の光解離過程をモデル系として数値シミュレーションを行い、テラヘルツ波アシステッド気体電子回折法の有用性を示した。本手法ではテラヘルツ波を電子回折信号のストリーク電場として用いるため、ポンプ光とプローブ光(テラヘルツ波)との遅延時間を掃引することなく、化学結合の解離などの動的過程にある気体分子の電子回折像をフェムト秒の時間分解能のコマ送り画像として撮影することが可能となる。数値シミュレーションの結果から、本手法の実現が十分に可能であることを確認した。
我々は、円偏光数サイクルレーザー場による希ガス原子からの光電子放出を利用すれば、光電子の放出角度がその高エネルギー領域において一定値を取ることを利用して、実験結果から直ちに搬送波包絡線位相(CEP)の絶対値を決定できることを示した。本研究では、光電子放出角度が低エネルギー領域においては180度反転する位相反転現象に着目し、トンネルイオン化理論に基づいて、位相反転が起こる条件を解析式として求めた。位相反転を実測することができれば、得られた解析式から得られる結果と比較することによって、レーザーパルスの絶対CEPだけでなく数サイクルパルスの時間幅を求めることができることを示した。
When describing theoretically ionization and dissociation of molecules induced by an intense laser pulse, we need to introduce a theoretical approach beyond the Born-Oppenheimer (BO) approximation. In the present study, we apply an alternative method developed in our group, the extended multiconfiguration time-dependent Hartree-Fock (Ex-MCTDHF) method, to dissociation of H2+ induced by an intense laser field. In the Ex-MCTDHF method, the total wave function is represented by a linear combination of the products of electronic and protonic orbitals. Because the electronic orbitals depend on time in this method, electronic excitation and ionization processes can be represented well in terms of temporal variations of the electronic orbitals.
We show that the Ex-MCTDHF method can describe simultaneously the ionization and multi-channel dissociation processes of H2+ exposed to an intense laser pulse as long as the length of the multiconfiguration expansion is sufficiently large. By comparing the results obtained by the Ex-MCTDHF method with those obtained by a method in which the time-dependent Schrödinger equation is solved directly on a numerical grid, we discuss the convergence of the multiconfiguration expansion in the Ex-MCTDHF method with respect to the number of the electro-protonic configurations.
15個の塩基からなるDNA 15TGTアプタマーは安定なguanine quadruplex構造をもち、thrombinと結合して抗凝血薬として機能する。TGTループのDNAをアノマー化した8通りのアプタマーに対してMD計算を実行し比較することで、非結合時のアノマーの安定性と動力学を考察した。その結果、配列の中央のグアニン(G8)による陽イオンの閉じ込めが構造安定性の鍵であること、G8の振動には2つの直交モードがあることなどを動力学的な観点から見出した。8通りのアプタマーは次のグループに大別されると考えられる。(1)TTループの非対称振動による安定モード、(2)G8の横滑り振動による準安定モード、(3)陽イオンの閉じ込め不能な不安定構造の3つである。
超短パルスレーザー場の下での原子および分子の電子衝突イオン化を観測するために、散乱された電子とイオン化に伴って放出される電子を、小角側に設置した検出器と広角側に設置した検出器によって同時に観測するための装置を開発した。
この検出器の配置によって、検出効率が従来型の対称配置に比較して二桁程度向上できるばかりでなく、三重微分散乱断面積の光電場強度依存性の観測を通じ、原子・分子内の電荷分布が強い光によって歪む様子を定量的に議論することが可能となった。