蛋白質の立体構造について静的には行列模型を用いて、動的にはランダム行列理論を用いて解析を行った。蛋白質の二次構造をトポロジー展開におけるファインマン図と対応させることでトーラスの種数により分類した。PDBの蛋白質数万種類を擬ノットへ既約分解し、既約表現の出現頻度を考察した。種数が分子量の示量変数となること、既約表現には特徴的なスケールが存在することなどが判明した。開弦の世界面と二次構造を対応させるPennerらのfat graphによる分類との対応を議論する。動的分類には分子動力学の時系列解析にランダム行列理論を適用した。固有値の時間スケール依存性、準位交差、アンダーソン局在の指標等を用いて動的相の分類を行った。固有値がスケールパラメータの関数として対数発散することなども判明した。
2次イオン質量分析計 (SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometer) を用いた局所同位体分析は、太陽系の歴史を紐解く上で多大な貢献をしてきたが、1次イオンビームによるイオン化効率が低いというのが最大の弱点である。この弱点を克服し、これまで非常に困難であった1µm以下の極微細試料の年代分析を実現するため、我々はイオンビームによってスパッタされる中性粒子を高出力レーザーでポストイオン化する2 次中性粒子質量分析装置(SNMS: Secondary Ion Mass Spectrometer) の開発を進めている。
量子電磁力学(Quantum ElectroDynamics; QED)に基づいて系の時間発展を時々刻々と追跡するためには、従来の共変摂動論による方法では不十分であり、非摂動的な方法の開発が必要である。また、質点系の量子力学のように波動関数の時間発展を計算するだけでは不十分で、場の演算子の時間発展も合わせて計算する必要がある。われわれはMaxwell場とDirac場の量子場の方程式を正準量子化のもとで数値的に解く方法を研究しているが、その定式化と数値計算コードの現状について報告する。
[参考文献]
K. Ichikawa, M. Fukuda and A. Tachibana, Int. J. Quant. Chem. 113, 190 (2013); 114, 1567 (2014).
DNA二重螺旋構造の鎖切断の分子論的機構を解明するため,4から6塩基対をもつモデルDNA鎖の切断動力学の理論計算を行った。動力学計算には,DFT法に近い精度で高速計算が可能な密度汎関数強束縛法を用いた。DNAに1原子あたり約0.40eVの熱エネルギーを与えた場合,数ピコ秒で鎖切断が起こった。糖からリン酸基への水素移動後の塩基脱離に続いて,糖とリン酸基の結合切断が最も高い頻度で起こった。ポテンシャルエネルギーを各原子に分配する原子分割エネルギー法を用いて,切断過程におけるヌクレオチド間のエネルギー交換を定量化した結果,遠方のヌクレオチドから切断部への電荷流入・エネルギー流入が見られた。
高強度Ti:サファイアレーザー光を用いて発生させた高次高調波をAr原子に照射し、光電子分光を行ったところ、これまで報告の無かった非連続二価イオン化過程が観測された。この過程は、第19次高調波によりArを3s3p6np(1P)状態に共鳴的に励起し、さらに第23次または第25次高調波によりAr2+を生成するものである。既報の二価イオン化過程で主に生成したAr2+は3s23p4 (3P, 1D, 1S)状態であったのに対し、本過程では3s3p5(1P)状態が選択的に生成された。特異な選択則が観測された理由は、(1)電子が3pから3s準位へ遷移する低速な過程を含まない3s3p5状態の生成の方が起こりやすかったためと、(2)同時に放出される2電子は逆方向のスピンを持つ傾向があるためであると考えられる。
In order to simulate electronic dynamics of many-electron atoms and molecules exposed to intense laser radiation, we need to solve the time-dependent Schrödinger equation (TDSE). A promising approximate method for the solution of the TDSE is the multi-configuration time-dependent Hartree-Fock (MCTDHF) method [1,2]. In MCTDHF, the time-dependent many-electron wave function is expanded in a superposition of determinants, where both the configuration-interaction (CI) coefficients and the spin-orbitals are time-dependent. We propose an idea to factorize the large matrix of CI coefficients into a product of three matrices of reduced dimension. By doing so, we are able to keep all the determinants (configurations) in the expansion of the wave function, but still reduce the computational effort, since the CI coefficients are approximately calculated. We apply the method of factorized CI coefficients to three model systems, where the electrons are restricted to move in one dimension: laser-driven Be, laser-driven C, and laser-driven H4. We confirm that the proposed method gives an accuracy comparable to the standard MCTDHF method, but that the memory required to store the CI coefficients is significantly reduced.
[1] J. Zhangellini et al., Laser Phys. 13, 1064 (2003).
[2] T. Kato and H. Kono, Chem. Phys. Lett. 392, 533 (2004).
As an extension of the well-studied “H2+ + laser field” system to larger molecular systems, the nuclear dynamics of the weakly bound H2He+ complex exposed to intense femtosecond laser pulse is investigated. Due to the H2+ + He → H2 + He+ charge transfer reaction, nuclear motion takes place on three potential energy surfaces, which are coupled by the light-matter interaction. Ab initio quantum simulations on the photodissociation processes of the system reveal very rich nuclear dynamics, in which the kinetic coupling between the internal vibrational degrees of freedom play an important role. A large variety of dissociation products; HeH, HeH+, H2, H2+, H, H+, He and He+ might be produced, along with highly excited unstable vibrational states of H2He+ undergoing vibrational predissociation. The H2He+ molecule seems to dissociate to much lesser extent than H2+ under the same conditions.
高強度フェムト秒レーザー場におけるレーザーアシステッド電子散乱を高感度で観測するための実験装置を開発した。装置は、光電陰極型パルス電子銃、ガス導入ノズル、角度分解飛行時間型電子分析器、位置時間敏感型電子検出器より構成され、検出器における散乱電子到達時刻と検出位置から散乱電子のエネルギーと散乱角度が決定される。装置の性能を評価するために、レーザー場が存在しない条件の下、Xe原子を標的とした電子散乱実験を行い、弾性散乱電子のエネルギー分布と散乱角度分布を測定した。その結果、装置のエネルギー分解能は0.5eVであり、フェムト秒レーザーアシステッド電子散乱を観測するのに十分な性能であることが確認された。
イオントラップによって質量選択的に捕捉された分子イオン種の電子回折像を測定することによって、その分子イオン種の幾何学的構造を精密に決定することができる。ところが、このイオントラップ電子回折法による構造決定は、Ru20- などの金属クラスターイオンやC60+ など、散乱断面積の大きな分子種に限られていた。本研究では、散乱断面積が小さな分子イオン種の幾何学的構造を決定するために、高感度イオントラップ電子回折装置を開発した。開発した装置を用いた背景信号の測定実験から、入射電子線に対する背景信号強度が2.6×10-8 程度まで抑制され、分子イオン種からの電子回折像の測定に十分な性能を持つことが確認された。
数サイクルレーザーパルスの電場波形はその搬送波包絡線位相(CEP)により大きく異なるため、CEPは気体分子の光電子放出や解離に影響を及ぼす。この現象は電子やイオンと相対CEPを同時計測することにより調べられてきた。本研究ではこの同時計測法におけるCEPの絶対値を決めることを目的とし、円偏光強レーザー場における希ガスからの光電子放出角度のCEP依存性を測定した。CEPは電場の絶対値が最大のときの電場方向に対応するため、CEPに伴い光電子角度分布が変化する。半古典的シミュレーションとの比較により、相対CEPから絶対CEPに変換することが可能であることを示した。
強光子場中の原子や分子は、トンネルイオン化、放出電子の再衝突、多価イオンの生成に伴うクーロン爆発等の特異な現象を起こす。このような原子核と電子が相関した運動を理論的に扱うためには、イオン化過程の電子の運動を十分広い空間で、かつ、長いタイムスケールで計算する必要がある。そこで、強光子場中での水素分子の運動を、原子核-電子波動関数を用いて表し、その波動関数を浮動ガウシアン基底の一種である結合コヒーレント状態で展開して記述した。その結果、空間の広さに関わらず、長いタイムスケールで電子と核の運動が可能となった。
CH3CD3に超短レーザーパルスを照射すると、3原子水素分子イオンがH3+ : H2D+ : HD2+ : D3+ = 8 : 43 : 43 : 6 という統計的比率に近い比率で生成する。このことは、エタン2価カチオン内で水素原子のスクランブリングが起こることを示している。分子動力学法を用いてCH3CD32+より放出される3原子水素分子イオンの生成比率を求めたところ、H3+ : H2D+ : HD2+ : D3+ = 12 : 42 : 49 : 13 となり、実験結果を良く再現した。1000本のトラジェクトリーを使ってイオン内での水素移動の回数を解析したところ、1つの水素原子に着目すると、最大11回、平均0.7回、1つの分子の6個の水素原子の移動回数の総和としては、最大23回、平均4.4回であった。
数サイクルレーザーパルス(770 nm, 2.1 x 1014 W/cm2 , 6 fs)を用いたポンプ・プローブ計測によって、メタノールジカチオンのクーロン爆発過程をコインシデンス運動量画像法によって観測した。その結果、H3 + イオンを生成するクーロン爆発過程の収率が、パルス遅延時間に対して周期的(周期39 fs)に 変化した。このことから、メタノールの1価イオンにおけるCO結合の振動が、H3 + の生成量を変化させることが明らかとなった。