古典流体において粗視化した渦度分布を用いた研究がなされ、エネルギーカスケードの機構が明らかにされた。量子乱流においても、同様の機構によってエネルギーカスケードが起こり、Kolmogorov則が現れていると期待される。量子流体で反平行の渦の束を配置したモデルを考え、古典流体と同様、この束に垂直な高波数の渦度分布が渦伸張により生成されることを確かめた。次にKolmogorov則を満たす量子乱流状態に対し、同じ方法で渦度分布を統計的に調べ、反平行な渦とそれに垂直な高波数の渦が生成されやすいことが分かった。これらにより、古典流体と同様、渦伸長による垂直渦の生成がエネルギーカスケードの一因であることが示唆される。
In order to explore a possibility of investigating the predissociation processes of electronically highly excited H2 by pump-probe electron impact excitation spectroscopy, we prepare electronically highly excited states of H2 by electron impact excitation using an electron pulse (1 keV, 30 ps) and probe the prepared electronic states and the predissociation processes by a near-IR femtosecond laser pulse (600 fs). The coincidence events of a scattered electron and a photoelectron appearing in the energy correlation map between the scattered electrons and the slow electrons are assigned to a variety of ionization and dissociation processes such as the electron impact excitation processes followed by the photoionization from electronically excited H2* and the electron impact excitation to the vibrationally excited states of the D state, producing H(1s) + H(2l) through the predissociation into the dissociation continuum of the B’ 1Σu+ state, followed by the three-photon ionization of the electronically excited H(2l) fragment.
一様な外部静電場中のH2とD2のトンネルイオン化レートについて理論的研究を行った。ダイソン軌道を使った多電子の弱電場漸近理論にボルン・オッペンハイマー近似を組み合わせることにより、多電子の効果と核の運動の効果の両方を取り入れた。また親イオンである H2+とD2+の基底状態と励起状態間のカップリングを考慮して外部電場に対する高次の補正を加えることにより、電場中の電子状態の歪みを取り入れた。いくつかの電場強度について、電場方向に対する分子配向角依存性を計算した。H2とD2、及び有効一電子近似の計算結果を比較することにより、多電子と核の運動の2つの効果について定量的評価を行った。
The adiabatic theory of tunneling ionization has been successfully used to describe tunneling ionization of atoms [Phys. Rev. A 86, 043417 (2012)]. This theory works particularly well for describing systems in strong, slowly oscillating laser fields in the near and far-infrared parts of the spectrum; a regime of laser parameters that are currently receiving a lot of attention within strong field physics.
In this work we seek to apply the adiabatic theory to molecular systems, while treating both nuclear and electronic degrees of freedom. We propose a theory that combines adiabatic theory with a variation of the well-known Born-Oppenheimer approximation. The results of this theory is compared to accurate TDSE calculations.
The multiconfiguration time-dependent Hartree-Fock (MCTDHF) method [1, 2] is an efficient method for solving the time-dependent Schrödinger equation for atoms and molecules in intense laser fields. In the MCTDHF method, the many-electron wave function is expanded as a linear combination of time-dependent Slater determinants constructed from time-dependent spin-orbitals.
The multiconfiguration time-dependent Hartree-Fock (MCTDHF) method [1, 2] is an efficient method for solving the time-dependent Schrödinger equation for atoms and molecules in intense laser fields. In the MCTDHF method, the many-electron wave function is expanded as a linear combination of time-dependent Slater determinants constructed from time-dependent spin-orbitals.
[1] J. Zhangellini et al., Laser Phys. 13, 1064 (2003).
[2] T. Kato and H. Kono, Chem. Phys. Lett. 392, 533 (2004).
スピン1BECの基底状態にはFerromagnetic相とPolar相、スピン2BECにはFerromagnetic相、Nematic相、Cyclic相があることが知られ、これらの相互作用パラメータに対する相図は明らかになっている。また最近、スピン1・スピン287Rb BECの混合系が実験で実現した。本研究では外部磁場がない場合のこの混合系について、スピン1・スピン2BEC間の相互作用に対する基底状態の相図を数値的に研究した。その結果、スピン状態が連続的に変化する中間的な相を含む多彩な相が存在し、球対称な系であるにも関わらずスピン1とスピン2のスピンベクトルが相対的に傾いている相を発見した。
当グループでは、超流動ヘリウム(He II)環境中に導入した不純物原子が示す特徴的な性質を利用した様々な分光研究を行っている。He II中では、不純物原子・He原子間の斥力により、原子周囲に空乏領域(原子バブル)が形成され、互いに異なる励起・脱励起スペクトルを示すことが知られている。内部原子の電子軌道の変化に追従したバブルの変形に起因するものと考えられているが、実時間分光観測により検証した例はない。
そこで本研究では、光化学の時間相関単一光子計数法を適用し、蛍光波長の時間変化を捉えることで、緩和時間の初観測を目指している。合わせて、量子計算ソフトウェアGaussian 09を用い、バブル系エネルギーの理論計算も行っている。
強レーザー照射による原子や分子のトンネルイオン化・再衝突過程によって複雑な光電子運動量スペクトルが得られる。低エネルギー領域のスペクトルに現れる構造は、再衝突過程における散乱波と参照波の干渉に対応するため、強レーザー場光電子ホログラフィと呼ばれる。我々のグループは、断熱理論に基づき、強レーザー場光電子ホログラフィから標的原子・分子の散乱振幅の位相が抽出されることを示した[1]。本研究ではこれを元に形状共鳴を持つ原子に適応し、散乱振幅の位相の急峻な変化の抽出を試みた。有効1電子近似の下で時間依存シュレーディンガー方程式を数値的に解き、光電子運動量を計算した。その結果を、断熱理論を用いて分析した。
[1] Y. Zhou, O. I. Tolstikhin, and T. Morishita, Phys. Rev. Lett. 116, 173001 (2016).
光子の軌道角運動量の量子もつれ合いの検証のためには、各光子を異なる軌道角運動量状態の重ね合わせ状態で検出する必要がある。本研究ではホログラムとファイバー干渉計を用いる経路干渉計法によって軌道角運動量重ね合わせ状態を検出する。
そこで、波長830 nmの半導体レーザーを用いてファイバー干渉計部品の特性測定を行った。検出対象の光子の波長が810 nmなので、近い波長のレーザーを用いた。測定対象はアテニュエーターと 2入力 2出力ファイバーカプラ―である。アテニュエーターは、調節ねじの回転角と減衰比の関係を明らかにし、2入力2出力ファイバーカプラ―については、マイクロメーターの指示値と出力の分岐比との関係について調べた。
超短パルスレーザーの時間波形制御では、光電場の時間‐周波数分布間に一次元のフーリエ変換の関係があることを利用している。一方、周波数量子もつれ光子では、高次元空間中のフーリエ変換により、時間‐周波数空間中の光子の確率分布が結び付けられることを、我々は明らかにした。この関係を利用することで、従来の波動光学では実現不可能な時間波束制御が可能になる。これまでに、二次元周波数空間中に二つの離散的なピークを持つ2光子分布を生成し、2光子の時間分布制御の原理実証実験を行ってきた。本発表では、さらなる任意時間分布制御に向けた二次元周波数空間中での多モード化について報告を行う。
近年、量子情報通信技術や分子分光技術の発展に伴い、高い時間分解能を持ち、高速に応答する微弱光検出技術が求められるようになってきた。究極の微弱光検出技術である単一光子検出技術についても、様々な手法を用いた実現がなされている。我々の研究室では、超高速光検出技術として知られる「光カーゲート法」を単一光子検出技術に用いることで、サブピコ秒の時間分解能を達成した。本手法では、フォトニック結晶ファイバ中の相互位相変調を極短パルスレーザーにより励起し、レーザーと時間同期した単一光子同時に入射することにより、ゲーティングを行う。本発表では、時間分解能についても併せて議論する。
光学計測等に利用される古典光の時間波束波形整形は、波動光学に基づいた時間―周波数領域における一次元フーリエ変換の関係にあることが利用されている。一方で、我々は時間―周波数空間中での量子もつれ光子の2光子確率分布が二次元フーリエ変換の関係にあることを明らかにしてきた。この関係を用いることで高次元空間中での量子的な光子の時間波束制御を行うことが出来る。今回、我々は二つのピークを持つ2光子周波数分布を生成し、ピークの間隔および相対位相を変化させることにより、2光子時間分布が変化することの確認を行い、高次元時間―周波数空間中での量子操作による新たな光制御方法(量子光シンセシス)の原理実証に成功した。
Hong-Ou-Mandel干渉に代表される2光子の量子干渉は二次の相関関数により説明される。我々は非線形結晶を用いた実験から、これらの二次の相関関数のフーリエ変換により2光子の差周波・和周波のスペクトル情報が抽出可能であることを明らかにした。これにより、2光子量子干渉波形のフーリエ変換から光子対の差周波・和周波のスペクトル情報を抽出する「量子フーリエ変換分光」への応用が期待される。本発表では、量子フーリエ変換分光計測から励起子分子の物性情報を抽出することを目的とし、励起子分子を介して生成された光子対の差周波型量子干渉波形とそのフーリエ変換により得られた2光子の差周波の強度スペクトルについて報告を行う。
非対称コマ分子に対するレーザー誘起3次元整列制御は,分子固定系での測定・操作に向けた基盤技術である。本研究は1 K~10 KのSO2分子を例に,最適な制御法および制御機構を明らかにする。そのために互いに直交する直線偏光ダブルパルスを仮定し,遅延時間・パルスフルエンスの関数として3次元整列度合いの最大値の分布図を作成する。膨大な計算コストの問題を解決するために,機械学習を用いて計算量の大幅な抑制を目指す。分布図を俯瞰することで,初期熱分布した状態数が約20を超えると(2~3 K)最適なパルス遅延時間が大きく変化することを見出した。一方,整列度合いの最適値は温度とともに単調に減少する。
We have generated a strongly correlated ultracold Rydberg gas by broadband picosecond pulsed-laser excitation of a disordered ensemble of 87Rb atoms in an optical dipole trap and established the method to observe and control its ultrafast many-body electron dynamics. We apply this method to an ordered system in an optical lattice to develop an “ultrafast quantum simulator”, uncovering more precise many-body dynamics hidden behind averaging over a disordered ensemble in the optical dipole trap. In the present poster, we will introduce our new experimental system and compare the ion yield after the Rydberg excitation between a BEC and unit-filling Mott insulator.
We study many-body electron dynamics in disordered and ordered ensembles of ultracold Rydberg atoms. A broadband picosecond laser pulse is utilized to excite Rb atoms in an optical dipole trap to their Rydberg states, generating a high-density disordered ensemble of Rydberg atoms. The bandwidth of the laser pulse is wide enough to cover several Rydberg states, so that Rydberg electron wave-packets are created. We investigate the ultrafast evolution of their electronic coherence by time-domain Ramsey interferometry with attosecond precision. We make similar measurements also with an ordered ensemble in an optical lattice, discussing the dynamics of strongly interacting Rydberg wave-packets.
大規模な量子情報処理の実現に向けて、周波数の自由度を利用した多次元量子状態の生成と制御が、近年盛んに研究されている。特に、共振器内での非線形光学結晶による光子対の生成は、共鳴によりフィルターを用いずに周波数を分割することが可能であり、周波数多重化された光子対を生成する有力な方法である。本研究では、サニャック干渉計に、単共鳴共振器型PPLN導波路を組み込むことで、周波数多重化された偏光エンタングル光子対の生成を行った。生成された状態は、量子トモグラフィによって偏光エンタングルメントが確認され、同時計数の時間的な振動によって周波数多重化が確認された。
長距離量子情報通信の実現のため、量子メモリを用いた量子中継器が提案されているが、量子メモリを読み書きする光の波長が多くの場合で光ファイバーでの伝送に適さないという課題がある。そのため量子メモリからの発光光子を光ファイバー通信波長帯へ変換する量子周波数変換が研究されている。本研究では量子メモリとして冷却Rb原子集団を用意し、この原子集団と偏光状態がエンタングルした波長780nmの光子を波長1522nmに変換した。この際、非線形光学素子の導波路型PPLNとサニャック干渉計を組み合わせた偏光無依存な量子周波数変換を実現することで、Rb原子集団と通信波長光子間のエンタングルメントの生成に成功した。