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第1日目 2011年6月17日(金) |
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セッション1.アト秒パルスで観る物質ダイナミクス (Material dynamics observed by attosecond pulses) |
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ディスカッションリーダー:小栗 克弥 |
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高次高調波によるアト秒パルス発生の報告がなされてから10年が経過し、アト秒パルスの発生・計測に関わるアト秒光源技術の発展は著しい。最近では、パルス幅100 asをきるアト秒パルス発生が報告されるなど、短パルス化、短波長化、高出力化に向けた光源技術の開発も進展し、「アト秒レーザー科学」と呼ばれる新たな分野を形成している。アト秒パルスの発生が注目されている大きな理由の一つは、その極限的短パルス性を利用することにより、物質内の電子状態の実時間計測・制御への応用が期待されているからである。現在、アト秒パルスを用いたポンプ-プローブ法により、主に原子・分子系におけるアト秒時間領域の物質ダイナミクス計測が試みられており、内殻電子の励起・緩和過程などこれまで不可能であった物質ダイナミクス計測の報告がなされている。また、単一アト秒パルスやアト秒パルス列といったアト秒光源の特徴や、光電子分光やイオンイメージングといった計測手法の特徴を生かしたダイナミクス計測への応用など、従来のフェムト秒レーザー科学の枠に収まらない展開を見せつつある。
本セッションでは、高次高調波を用いたアト秒パルスの発生・計測技術をベースに、アト秒パルスによる物質ダイナミクスの研究を精力的に進められているお二人の研究者をお招きし、最新の研究成果について紹介して頂く。これらを通して、アト秒パルスで見る物質ダイナミクスは、従来のフェムト秒レーザー科学で計測されてきた物質ダイナミクスと比べてどのような点が本質的に異なり、どのような物性を切り拓いていくのか、そのために必要とされるアト秒パルス光源の要件は何かなど、アト秒レーザー科学と物質科学が交差する「アト秒物質科学」の現状と可能性について議論する。
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講演1: 高強度アト秒パルス列による分子の非線形応答の観測 (Observation of nonlinear molecular response using intense high-order harmonic radiation) |
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古川 裕介 |
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高次高調波は、極端紫外から軟X線領域において非線形光学現象を引き起こすことができる強力なアト秒パルス・パルス列光源である。高次高調波発生技術の進展は、高次高調波の短パルス化をもたらし、現在では単一アト秒パルスの発生も可能となっている。また、短波長を目指す研究では、水の窓領域の高次高調波発生が報告されており、さらに我々の研究グループでは、高出力化によって高次高調波による非線形過程の発生の研究を行ってきている。
高次高調波発生を波長変換法としてみれば、一段の変換で広帯域にコヒーレント光を発生させる手法である。我々は、このアト秒パルス列の広帯域性に注目し、非線形フーリエ分光の手法を分子のイオン化・解離過程の研究に応用することを試みている。この手法は、電場干渉自己相関測定に現れる周波数成分の解析から高次高調波に含まれる波長成分がどの様にターゲット分子に吸収され、励起、イオン化、解離等の過程が起きたのかを考察するものである。本講演では最近の研究成果とともに今後の展開について述べる。
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講演2: 時間分解光電子分光によるプロトン移動の研究 (Study of proton transfer by time-resolved photoelectron spectroscopy) |
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関川 太郎 |
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21世紀にはいり最初のアト秒パルス光発生・計測が報告されてから10年たつ。この間、アト秒パルス光の発生・計測法の研究が進められ、ポンププローブ法によるアト秒時間分解分光への応用が進んでいる。一方、光電場と電子の相互作用に着目し、原子分子分光技術と組み合わせて、高次高調波発生も含めたアト秒の時間領域でおこる現象の研究が進められている。これら二つの研究分野を総称して、「アト秒レーザー科学」と呼ばれている。
我々は、前者の立場から光源開発や新たな研究対象の探索を進めている。現在、励起状態で分子内水素結合においてプロトン移動を起こすサリチリデンアニリンを時間分解光電子分光により研究している。励起波長や置換基効果により緩和ダイナミクスが大きく変わることがわかり、密度汎関数法によるポテンシャル計算と比較することにより解析を進めている。講演では、これらについて述べると共に、アト秒パルス光により更に何が分かるのかを考える。
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セッション2.弱測定 (Weak measurements) |
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ディスカッションリーダー:井元 信之 |
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被測定系と測定装置の相互作用を弱くした弱測定の極限において、量子測定は被測定系を乱さなくなるとともに、測定誤差も発散する。しかし同一系が 十分多数の集団からなる場合「期待値」の測定精度はいくらでも上げられる。これをアハロノフは弱値と呼び理論を展開した。系の初期状態と終状態を 固定したとき(それ以外の場合が起きたら無視するなど)の中間状態である物理量の弱値を測定したときが特に興味深く、その物理量が本来とる値の範 囲を逸脱する。特に存在確率と通常理解される量の弱値が負になる決定的な実験は2009年に横田等とSteinberg等によって独立に行われ、 異常な弱値の理論の正しさが検証された。現在「どのような場合に弱値が異常となるか」が議論の対象となっており、理論上の興味のみならず新しい実 験の提案も期待されている。今回の2人の講演者には理論の立場から研究の進展について紹介していただく。
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講演1: 弱測定の幾何学的描像 (Geometric aspects of weak measurement) |
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玉手修平 |
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弱測定は1988年にAhaonovらによって考案された測定の枠組みであり、
種々の量子力学上のパラドックスを実験的に検証し、量子力学的直感を培うため
の道具として注目されている。弱測定の測定値である弱値は通常の射影測定とは異なり、一般に複素数値をとり、オブザーバブルのスペクトルから外れるような値を取り得るという特異な性質をもっている。この性質のため、「負の確率」のような一見不可思議な測定結果を与えることもある。
今回の発表では、ブロッホ球上で弱測定を記述するための形式的な枠組みを与え、弱値の取り得る値について理解を深めるための幾何学的な描像について議論を行いたい。また、この描像を用いて「負の確率」についての幾何学的な意味づけを行う。最後に、弱値の特異な性質の物理的な起源として幾何学的位相としての意味づけを与えた研究結果についても紹介する予定である。
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講演2: ボルン則と文脈に依存する観測量の値としての弱値 (Born's rule and weak value as context dependent value of observables) |
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細谷 暁夫 |
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We consider a value of an observable by a `sum rule' for generally non-commuting observables and a `product rule' when restricted to a maximal commuting subalgebra of observables together with the requirement that the value is unity for the projection operator to the prepared state and vanishes for all the commuting observables other than the state to be post-selected. The crucial requirement is that the expectation value of an observable should be independent of the way of measurements, i.e., the choice of the maximal commuting subalgebra of observables. We show that the contextual value of an observable coincides with the weak value advocated by Aharonov and his colleagues by demanding the consistency of quantum mechanics with Kolmogorov's measure theory of probability. This also gives a derivation of Born's rule, which is one of the axioms in the conventional quantum mechanics.
We also briefly discuss its geometrical structure as a fiber bundle over the sate space.
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第2日目 2011年6月18日(土) |
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セッション3.量子シミュレータ (Quantum simulator) |
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ディスカッションリーダー:大森 賢治 |
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A classical computer needs exponential resources to simulate realistic quantum phenomena. In the solid-state systems, for example, huge numbers of electrons and nuclei interact quantum-mechanically among each other. The Hubbard model is known to be the simplest approximate model for a classical computer to simulate this many-body quantum system, composed of only two terms describing tunneling of particles between neighboring sites of a lattice and their on-site Coulomb interaction. Even with this simplest model, however, the maximum site-number that can be simulated with a current fastest supercomputer is no more than twenty, which is far below the actual site-numbers in a realistic solid-state system. Instead of using such a classical computer, Feynman proposed using another class of computer which is now referred to as a "quantum simulator," saying that "…, because nature isn't classical, dammit, and if you want to make a simulation of nature, you'd better make it quantum mechanical, and by golly it's a wonderful problem, because it doesn't look so easy" (Int. J. Theor. Phys. 21, 467 (1982)). In this approach many-body interactions in the solid state can be simulated with an experiment in an artificial many-body quantum system such as an ensemble of ultracold atoms in an optical lattice. This quantum simulator has successfully simulated the Hubbard model (Greiner et al, Nature 415, 39 (2002)). In this session we will discuss the cutting edge of the quantum simulator for atomic-level phenomena and its future possibility to simulate another class of physics such as the beginning of universe.
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講演1: Atomic physics and quantum optics using circuits behaving as tunable artificial atoms |
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Franco Nori |
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Superconducting (SC) circuits can behave like atoms making transitions between a few energy levels. Such circuits can test quantum mechanics at macroscopic scales and be used to conduct atomic-physics experiments on a silicon chip. Examples of this, that we have studied theoretically [1], include the following: SC qubits for photon generation and for lasing; 2-1 photon coexistence; cooling qubits and their environment; using SC qubits to probe nearby defects; hybrid circuits involving both charge and flux qubits; quantum tomography in SC circuits; preparation of macroscopic quantum superposition states of a cavity field via coupling to a SC qubit; generation of nonclassical photon states using a SC qubit in a microcavity; cluster states; using these circuits as quantum analog emulators of Kitaev lattices; controllable scattering of photons inside a one-dimensional resonator waveguide; the Dynamical Casimir effect, and controllable couplings among qubits. Some of these results will be reviewed in this talk.
[1] The PDF files of our publications are available online at:
http://dml.riken.jp and also at: http://www.umich.edu/~nori/
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講演2: 冷却原子気体におけるトポロジカル現象 (Topological aspects in ultracold atomic gases) |
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上田 正仁
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Ultracold atomic gases host a wealth of symmetry breaking and topological excitations, because they involve different types of interactions having distinct symmetries and energy scales. Consequently, the system undergoes spontaneous symmetry breaking in a number of different ways, producing a rich variety of topological excitations such as non-Abelian vortices, monopoles, skyrmions, and knots. In the talk, I will give an overview of the subject and discuss the implications in quantum turbulence and the Kibble-Zurek mechanism.
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セッション4.脳の機能に分子レベルでせまる-仕組みの解明から病変まで- (Can we understand the brain functions at the molecular level?
-- Molecular approaches to understand how our brain works and how we get diseases -) |
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ディスカッションリーダー:小安 重夫 |
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我々の生体の構造や機能に関する情報は遺伝子に蓄えられている。思考を司る脳も例外ではない。では、遺伝子とその産物としてのタンパク質という分子が脳の正常機能をどのように作り上げているのであろうか。正常機能を司る制御機構の異常や構造の異常は病態へ結びつくが、そのような変化はどのようにして起こるのだろうか。本セッションでは、2人の演者に話題を提供していただき、脳の理解に分子レベルでせまりたい。正常機能とその異常を統合的に理解することができれば、最終的に神経疾患の治療に結びつくことが期待される。
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講演1: 分子間相互作用が生みだす神経細胞移動と精神疾患におけるその異常 (Neuronal migration induced by protein-protein interaction and its abnormal regulation in psychiatric disorders) |
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榎本 篤 |
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脳の「海馬」と呼ばれる領域は記憶や学習を司る部分で、その異常はアルツハイマー病などの神経変性疾患、統合失調症(以前は精神分裂病と呼称)などの精神疾患の発症と関連している。海馬では、終生「幹細胞」が生まれ続けており、新しい神経細胞が作り続けられている(神経新生)。この神経新生を制御しているメカニズムは不明のままであったが、近年の神経科学の発展によりその一部が解明されつつある。
海馬で新生した神経細胞は(1)適正な位置まで移動して、(2)正しい場所に位置取りし、(3)ネットワークに組み込まれていく必要がある。神経細胞の移動には分子(ここではタンパク質)間同士の相互作用(結合)が重要であり、それは自動車が動くためには数々の部品が協調して働くのと同様である。私達は最近、タンパク質DISC1(Disrupted-In-Schizophrenia 1)とGirdinの相互作用が海馬における新生神経細胞の移動と位置取りに必須であることを明らかにした。この両タンパク質は細胞移動のブレーキとして働き、両者間の相互作用が失われるとブレーキがきかなくなることが判明した。興味深いことに、DISC1はその名のとおり、その機能異常が統合失調症の原因となりうることが知られ、現在国内外の多くの研究室で機能解析が進められている。
以上のようにタンパク質分子は決して単独で機能しうるものではなく、タンパク質同士の相互作用が複雑に組み合わさって細胞の機能、あるいは疾患の病態形成に関わっている。将来的にはこの分子間相互作用を戦略的に制御することで、疾患の治療や加齢に伴う海馬機能の低下の改善をめざす時代がくることも予想される。
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講演2: NMRで探る神経変性疾患の分子メカニズム (Molecular mechanisms underlying neurodegenerative disorders as studied by NMR spectroscopy) |
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加藤 晃一 |
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生命体を構成する多種多様なタンパク質分子は、固有の3次元構造を形成し、これにより厳密にして柔軟な分子認識能、効率的かつ特異的な触媒能など、生命活動を支える精緻な機能を実現している。したがってタンパク質分子の構造に生じた異常は、その機能の不全をもたらし、結果的に重篤な疾患に至る場合がある。例えば、代表的な神経変性疾患であるパーキンソン病は、パーキンと呼ばれる酵素に生じるわずかアミノ酸1残基の違いによって発症し得ることが知られている。
核磁気共鳴(NMR)法は、こうしたタンパク質の立体構造を研究するのに有力な方法の1つである。特に、空間的に近接する水素原子核間の磁気双極子-双極子相互作用を利用することによって、溶液中のタンパク質分子の3次元構造を原子レベルで決定することができる。
ところが最近、生理的な条件下でも一定の3次元構造を持たないタンパク質が数多く存在することが明らかとなってきている。天然変性タンパク質(intrinsically disordered proteins)と総称されるこれらのタンパク質の中には、神経組織において異常な凝集体として蓄積し、神経細胞の死滅を引き起こすものもある。例えば、アルツハイマー病の発症は、アミロイド (A )とよばれるアミノ酸40残基ほどからなるタンパク質の異常会合によって引き起こされることが知られている。最近の研究により、A の分子会合には神経細胞表層に存在するガングリオシドGM1とよばれる糖脂質分子が形成する分子クラスターとの相互作用が重要なステップとなっていることがわかってきた。
本討論会では、こうした神経変性疾患にかかわる生体分子の構造・ダイナミクス・相互作用を原子レベルで解明することを目指した私たちのNMRによるアプローチを紹介する。
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セッション5.極低温分子生成の物理とその展望 (The physics and perspectives of ultracold molecule formation) |
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ディスカッションリーダー:Pascal Naidon |
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Experiments with gases of atoms cooled to ultra-low temperature have enabled physicists to study fundamental quantum phenomena. The most well-know achievement is the creation of a gaseous Bose-Einstein condensate of atoms in 1995, awarded by the Nobel Prize in 2001. Since then, it has been possible to prepare not only ultracold atoms, but also ultracold molecules in various states, from rovibrational ground states to more exotic loosely bound molecules. This introduction will briefly review the creation and features of these molecules, and how they can be used to investigate exciting physics.
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講演1: 有限温度ボース・フェルミ混合系での集団運動の研究 (Collective oscillations in Bose-Fermi mixtures at finite temperature in time-dependent approach) |
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丸山 智幸 |
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The Bose-Fermi (BF) mixtures attract physical interests as a typical example where particles obeying different quantum statistics are intermingled, and it will give a big opportunity to obtain a lot of new knowledge on quantum many-body systems. The collective excitation is one of important diagnostic signals of many-particle systems because of their sensitivity on the inter-atomic interactions and the ground- and excited-state structures.
In order to study the time-evolution of the collective motions, we construct the dynamical time-dependent approach by combining the time-dependent Gross-Pitaevskii equation for condensed bosons and the VUU equation for thermal bosons and fermions. This approach can describe the time-dependence dynamics in the BF mixtures at zero and finite temperatures, even if the trap is largely deformed, and the amplitude of oscillation is larger than 10% of RMSR. In addition it is possible to introduce the creation and the decay of molecules composing of multi-atoms. In this work, then, we study the breathing oscillations at finite temperature and discuss their temperature dependence.
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講演2: 全光学的手法による振動回転基底状態の極低温分子生成 (All-optical formation of ultracold molecules in the rovibrational ground state) |
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小林 淳 |
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Recently, experimental techniques for making ultracold molecules from ultracold atoms has been greatly developed. Various kinds of ultracold molecules (Rb2, Cs2 and 40K87Rb) in the rovibrational ground state were made from quantum degenerate atoms by using Feshbach association and Stimulated Raman Adiabatic Passage (STIRAP). In last year, we successfully made ultracold 41K87Rb molecules in the rovibrational ground state by a new method, in which we did not use Feshbach association but photoassociation and STIRAP[1]. Since Feshbach association is not used, our method is applicable for many kinds of atomic species including alkaline earth atoms which can be cooled by laser cooling. I would like to show the techniques for making ultracold molecules in my talk.
[1] K. Aikawa et al., Phys. Rev. Lett. 105, 203001 (2010)
近年、極低温原子から極低温分子を作る実験技術が大きく進展している。Rb2、Cs2、40K87Rbなどの様々な種類の振動回転基底状態の分子がFeshbach会合とSTIRAPを使って、量子縮退した原子から作られている。昨年、我々はFeshbach会合ではなく光会合とSTIRAPにより振動回転基底状態の41K87Rb分子を生成することに成功した[1]。我々の手法はFeshbach会合を使っていないため、アルカリ土類原子などのレーザー冷却可能な多数の原子種を使った分子生成が可能である。本発表では極低温分子を生成する実験技術について紹介したい。
[1] K. Aikawa et al., Phys. Rev. Lett. 105, 203001 (2010)
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