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第1日目 平成17年6月18日(土)
 
セッション1.「X線分光によって明らかになる宇宙の実像」
ディスカッションリーダー:季村 峯生(九大理)
  物質に電磁波や粒子をぶつけ、それに対する応答から物質の特性、物性値、を決める方法を分光と呼び、古くから基礎科学、工業技術の分野で用いられており、プリミチィブな例とし古代エジプト時代の青銅鏡製造現場などでも行なわれていたと史記に書かれている。近代になり溶接工業ではPIXEが、化学工業ではXASやESCA、材料科学ではLEEDなどが物性探査/検査に欠くことが出来ない手法となっている。電磁波、特にエネルギーの高いX線領域の電磁波を用いた様々な物性研究や物質同定の研究も最近様々な分野でマスコミを賑わしている。少し以前の和歌山カレー事件ではSpring8を使った砒素同定試験が決定的証拠となったし、最近では米軍によるイラクでの大量破壊兵器証拠の捜査などがある。宇宙から飛来する様々な電磁波や宇宙線中粒子を測定分析し、宇宙の起源や構成物質要素、密度分布や温度分布などの知見を得ようとする天文学分野もあり、新たにX線天文衛星を使い宇宙X線を高分解能測定し超マクロ世界のミクロ情報を得ようとする試みが始まっている。
  本セッションでは、X線観測を用いた宇宙の探査法と得られる新たな知見、そこから我々のこの宇宙観についてどこまで定量的に話がつくれるのか、そして、その宇宙観の元となるX線スペクトル観測分析について実験室で多価イオン分光実験がどの程度詳細に且つ広いperspectiveで行なうことが出来るのか、の2つの話題についてお話を頂く。大橋隆哉氏はX線天文衛星による観測データ分析から、我々の新たな宇宙観を提案しようとされている。中村信行氏は実験室プラズマの多価イオンからのX線スペクトル分光解析から得られるであろう情報の種類と量、及びその物理的意味の可能性について提言されようとしている。X線分光の可能性とその限界、またその相補的役割を担う方法論などについても言及いただけると期待している。
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講演1: X線による宇宙高温プラズマの分光観測
  大橋 隆哉(首都大・都市教養)
  X線による宇宙観測はエネルギー分解能の向上により、発生源である高温プラズマの電子温度、元素組成だけでなく、プラズマの運動状態やイオン温度にも制限がつけられるようになりつつある。ここでは、主に銀河団をテーマとしてX線観測により何がわかるのかを、「あすか」、チャンドラ、ニュートンといったX線天文衛星の観測結果を交えながら説明する。銀河団は差し渡し1千万光年ほどもある銀河数100個からなる集団で、銀河だけでなく温度数千万度の高温プラズマがダークマターの重力によって束縛されたシステムである。銀河団のX線観測からわかってきたことは、銀河団同士の衝突、合体、あるいは、それに伴う衝撃波の兆候がいろいろな形で観測され、銀河団というのは極めてダイナミックなシステムで現在も進化しつつあるということである。本年の初夏に日本が打ち上げを予定しているX線天文衛星Astro-E2は、これまでに比べてエネルギー分解能が20倍ほど向上した検出器、マイクロカロリメータを搭載しており、さまざまな元素の輝線を検出できるだけでなく、高温プラズマに対するドップラー分光観測が初めて可能になる。これによって、銀河団の進化の現場でプラズマが運動する様子が直接観測できるようになる。Astro-E2衛星を簡単に紹介するとともに、銀河・銀河団についてどのような結果が期待されるのかについて述べたい。
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講演2:電子ビームイオントラップを用いた多価イオン原子過程の研究
        〜X線天文学への実験室からの貢献〜
  中村 信行(電通大)
  X線天文学の歴史は古いが、近年では、ChandraやXMM-Newtonなど高分解能天体観測衛星の活躍により新たな局面を迎えつつあると言っていい。日本においても、高い分光能力と、広い観測帯域を兼ね備えたX線天文衛星、Astro-E2の打ち上げが目前となっている。それらの観測衛星により、太陽を始めとする天体プラズマ中に存在する多価イオンの高分解能X線スペクトルが取得され、そのライン強度比やライン幅などから、プラズマ温度、密度、異方性などが診断される。それらの診断が正しく行われるためには、多価イオンに関する正確な分光データが必要であることは言うまでも無いが、観測衛星の高分解能化・高性能化に伴い、必要とされる分光データにもより高い精度・信頼性が求められている。
電子ビームイオントラップ(Electron Beam Ion Trap: EBIT)は、そのような多価イオンに関する分光データを測定する上で最も適した装置と言える。EBITでは、ほぼ静止した状態でトラップされた多価イオンが、単色・単向の高エネルギー電子ビームに励起されることによって放出するX線を分光測定することが可能である。しかも、原理的には、あらゆる元素、あらゆる電荷状態の多価イオンが測定対象となり、電子ビームのエネルギーも1keV程度から300keV程度まで連続的に可変である。従って、EBITを用いた測定には以下のような特徴がある。
  • ドップラーシフト、拡がりの無い高分解能・高精度測定が可能
  • 放射の角度分布、偏光度に関する知見を得ることが可能
  • 等電子系列、等核系列などに対する系統的測定が可能
更に、プラズマ中の素過程として最も重要な電子−多価イオン衝突について、電離(直接、間接)、励起、二電子性再結合など様々な過程の断面積を測定することも可能である。
このようなEBITを用いた多価イオンの分光学的研究について、電通大のTokyo-EBITで進められている研究を中心に紹介する。
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セッション2.  テラヘルツ波の拓く世界−基礎から応用まで−
ディスカッションリーダー:小田島 仁司 (明大理工)
  テラヘルツ波は、文字どおりTHz ( = 1012Hz) の周波数を持つ電磁波のことであり、いわゆる電波と光の境界に位置する電磁波のことである。電波はエレクトロニクスの技術を用いて発生させることができ、一方、コヒーレントな光はレーザー発振により発生させることができるが、テラヘルツ領域では、どちらの技術も適用するのが困難になる。テラヘルツ電磁波は発生させることが難しく、結果として電磁波を利用した物性研究も他の領域に比べて遅れている。そのため,テラヘルツ領域は「電磁波の未開拓領域」、あるいは「電磁スペクトルの谷間」などと呼ばれてきた。
  電磁波の利用には、X線を用いたレントゲンのように「目に見えないものを見えるようにする」イメージングがある。テラヘルツ波が利用できれば、照射対象に与えるダメージが少ないイメージングが可能になる。また、スペクトルの測定による物性研究、分析においては、テラヘルツ領域に現れるスペクトルを解析することで、新たな情報を得ることができる。この領域には原子の微細構造間の遷移、分子の回転遷移、振動遷移に由来するスペクトルが現れる。また、生体分子等の巨大分子の大域的振動運動、液体における分子間相互作用、水素結合ネットワーク、固体の格子振動にかかわるスペクトルなどが現れる。得られる正確な情報は、基礎物理学だけではなく、関連する生物学、環境科学、電波天文学などの分野においても利用されるであろう。
  分子分光学の分野では、BWO(後進波管)、遠赤外レーザーのマイクロ波サイドバンド、赤外レーザーの差周波発生により周波数可変テラヘルツ波を得て高分解能分光が行われてきが、これらの技術は一部の研究者のみが扱うことができる特殊なものだった。しかし、近年ではレーザー技術と半導体技術の進展により新たなテラヘルツ波発生技術が確立し、さらに、光源の操作性が著しく向上した。現在、テラヘルツ波の発生と応用では、パラメトリック周波数変換を利用した方法と、フェムト秒レーザーを利用した方法が二大潮流となっている。これらの光源の開発で、これまで一部の限られた研究者だけが発生させることができたテラヘルツ波が,今では身近な電磁波となりつつある。その結果、テラヘルツ波を利用したイメージング、分析等への応用の道が開け、基礎研究機関のみならず産業界をも巻き込んで、テラヘルツ波の一大ブームが到来するに至った。
  本セッションでは、テラヘルツ波の発生と応用に関する研究で中心的な役割を果たされている二人の研究者をお招きする。川瀬晃道氏にはテラヘルツ波パラメトリック発生器について、また、谷正彦氏にはフェムト秒レーザーを用いたテラヘルツパルス光源について、それぞれの方法におけるテラヘルツ波発生原理と特徴、また、それを利用したイメージング、分光測定、分析等への応用についてご紹介いただく予定である。新しいプローブであるテラヘルツ波の持つ可能性について議論し、テラヘルツ領域開拓の今後についても展望する。
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講演1:テラヘルツ波のパラメトリック光源とイメージング応用
  川瀬 晃道(理研)
  光波と電波の谷間に残された未踏の光「テラヘルツ波」を用いた新しいイメージング技術に関する国際間プロジェクト研究がこの1,2年欧米で強力に推進されており、我が国でもこの分野の技術開発は急務と考えられる。
  我々は、レーザー光の波長変換技術を用いて既存の自由電子レーザーなどに較べはるかに小型簡便な広帯域波長可変テラヘルツ(THz) 光源の開発に成功し[1]、さらなる高性能化、小型化などに関する研究を進めている。光注入型テラヘルツパラメトリック発生器は、フーリエ限界の狭線化を達成した。最近では、マイクロチップレーザーを励起光源として超小型テラヘルツ光源の開発、あるいはシンクロナスポンピング型テラヘルツ光源などの開発を進めている。
  また、次のようなテラヘルツ波の応用研究を進めている。まず、広帯域波長可変テラヘルツ光源を用いた新しいテラヘルツイメージング技術の研究開発を進めている。この成果として、テラヘルツ分光イメージングによる錠剤などの主成分解析技術を開発した。これは、複数の試薬が混ざったサンプル中の特定試薬の分布密度を画像化する新技術で、光源の広帯域波長可変性と、最近テラヘルツ帯で次々発見されている試薬類の指紋スペクトルを活かした成果である[2]。この技術を用いて、郵便物検査、覚醒剤・爆発物所持検査、医薬品検査、病理組織診断、などへの応用が期待される。また、レーザーテラヘルツ放射顕微鏡という新しい非破壊非接触の計測診断技術を大阪大学と共同で開発し、半導体チップ(LSI)の故障解析などへの応用を展開している[3]。さらに、様々なテラヘルツ技術やミリ波技術を用いて、病理組織診断、DNA/タンパクチップ診断、凍結解凍モニタリング、農作物の鮮度や水分情報のモニタリング、各種非破壊検査、などへの応用展開を図っている。
  講演当日に、光源および応用に関する詳細を述べる。
  1. K. Kawase, J. Shikata, H. Ito, "Terahertz wave parametric source," Journal of Physics D: Applied Physics, vol. 35, no. 3, pp. R1-R14 (2002).
  2. K. Kawase, Y. Ogawa, Y. Watanabe and H. Inoue, "Non-destructive terahertz imaging of illicit drugs using spectral fingerprints," Optics Express, vol. 11, no. 20, pp. 2549-2554 (2003).
  3. M. Yamashita, K. Kawase, C. Otani, T. Kiwa and M. Tonouchi, "Imaging of large-scale integrated circuits using laser-terahertz emission microscopy", Optics Express, vol. 13, no. 1, pp. 115-120 (2005).
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講演2:フェムト秒レーザーによるテラヘルツ電磁波の発生とその光・計測応用
  谷 正彦(阪大・レーザー)
  近年テラヘルツ電磁波を用いた分光・計測応用が注目を集めている。これはレーザー励起によるテラヘルツ電磁波の発生・検出技術が開発され、成熟してきたことが背景にある。レーザー励起によるテラヘルツ電磁波の発生技術としては、(1)非線形光学結晶をナノ秒のパルスレーザー(通常はQスイッチのNd:YAGレーザー)で励起することによる光パラメトリック発振または光パラメトリック増幅による方法、(2)フェムト秒のパルスレーザー(モード同期チタンサファイアレーザー、あるいはフェムト秒のファイバーレーザーのSHG出力)で光伝導アンテナあるいは非線形光学結晶を励起する方法の2つに大別することができる。ちなみに光伝導アンテナあるいは広帯域のフォトダイオードに半導体レーザーなどで発生させた光ビートを照射し、光混合(photo-mixing)で単一波長のテラヘルツ電磁波を発生させる手法もある。本講演では主として(2)のフェムト秒レーザー励起によるテラヘルツ電磁波パルスの発生とその検出技術を概説し、応用としての分光・計測技術について発表者らが実際に行った測定例を示すことで、その実情を紹介する。
  フェムト秒レーザーで半導体光伝導アンテナなどの放射素子を励起するとモノサイクルに近いパルス電磁波が発生する。これを光伝導アンテナなどでコヒーレント検出することができる。要領は物質の過渡応答を検出するのによく用いられているポンプ・プローブ法といわれている信号検出手法と同じで、ポンプ光とプローブ光の光学遅延を走査することで電磁波の振幅波形に対応した信号を得る。ちなみに"コヒーレント"という言葉は単に単色性を意味する場合もあるが、ここでは位相を含めて制御・検出するという意味で用いている。この時間振幅波形を複素フーリエ変換することで吸収と分散に関する情報がクラマース・クローニッヒの関係式を使わなくとも直接得られる点が大きな特徴である。この分光手法はテラヘルツ時間領域分光(Terahertz Time-Domain Spectroscopy, THz-TDS)と呼ばれている。THz-TDSでは光源の平均パワーはサブΟWレベルとあまり大きくないが、ピークパワーはmWレベルであるので熱輻射による背景ノイズの影響を受けずに、室温でしかも高い信号雑音比で測定が可能である。また 理想的な点光源に近いので、回折限界までビームを絞りこむことができ、従来よりもサイズの小さいサンプルでも測定が容易で、またイメージング応用などにも好都合、などの利点もある。
  発表者の研究グループでは有機・生体関連分子をターゲットにTHz-TDSを用いた分光及び計測応用の研究を行っている。水素結合など弱い相互作用と関連した有機・生体関連分子の振動モードの周波数はテラヘルツ帯にあるため、その吸収・分散スペクトルを測定することで有機・生体関連分子の相互作用(分子内及び分子間)や、弱い相互作用に関連した機能や構造(コンフォメーション)に関する情報が得られるのではないかと期待されている。講演では実例として発表者の研究グループで測定したアミノ酸、ペプチド、薬剤、爆薬、有機溶媒(とくに引火性のもの )などについての測定結果や、2次元EOサンプリング法と呼ばれる手法を用いたテラヘルツ電磁波による分光イメージングシステムについて紹介する。
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セッション3.「時間・周波数極限」
ディスカッションリーダー:久我 隆弘(東大総文)
  よく知られているように、波動や過渡的応答現象にはフーリエ変換限界と呼ばれる「古典的」制約があります。この制約を式で表現してみますと、波や応答の角周波数分布幅をΔω 、現象起こる典型的な時間幅をΔt として、Δω ・Δt 〜1となります。このフーリエ変換限界は、電磁波の周波数をより正確に知るにはより長い測定時間が必要となることや、より短い時間幅の電磁波(もしくは立ち上がりあるいは立ち下がりの速い電磁波)を作るにはより広い周波数分布が必要であること、などに端的に現れます。
本セッションではまず、それぞれの極限に挑んでいる最前線の研究者からその挑戦の現状を紹介して頂きます。時間極限に関しては東京大学物性研究所の関川太郎氏に、フェムト秒を切るアト秒領域の電磁波パルスの発生とその応用について、周波数極限に関しては産業技術総合研究所の洪鋒雷氏に、光領域での絶対周波数を精密に測定する新しい技術についてお話しして頂きます。
  お二方の研究はフーリエ変換限界のそれぞれ別の極限を追求しているにもかかわらず、面白いことに両者には技術的に共通している部分があります。それは、基本光源として連続発振モード同期レーザーを使うという点です。モード同期レーザーは、周波数軸上で等間隔に並ぶ連続発振レーザーの位相を同期させることにより、時間軸上で時間幅の狭いパルスを等時間間隔で発生させるものです。これは数学のフーリエ変換そのものでもあります。そして、モード同期レーザーを時間軸上で見るのか周波数軸上で見るのかの違いが、どちらの極限を追求するのかの違いとなります。
  セッション後半の自由討論では、これらの挑戦の技術的な共通点や相違点を議論するだけでなく、これら極限を追求していくことの基礎学問的な意義も議論したいと思います。たとえば絶対周波数の測定精度が向上すれば、普遍的な基礎物理学定数の精密測定のみならず、その時間変化も測定可能といわれています(時間変化があれば「普遍的」とは言えませんが・・・)。これは統一理論の枠を超えた大統一理論や宇宙論ともつながりをもつ大きな挑戦・夢でもあります。絶対周波数測定が極端紫外領域やX線領域でも可能となれば、さらに測定精度が高まりますので、それらの可能性も議論したいと思います。
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講演1:極端紫外アト秒パルス発生と非線形光学
  関川 太郎(東大物性研)
  光の場に対する電子系の非線形的応答は自然界では普遍的なものであるが、極紫外線(XUV)や軟X線の領域ではコヒーレントな強い光源が得られないためその観測は難しいとされてきた。高次高調波発生は高光電場により生じる非線形光学現象のひとつであるが、今、コヒーレントな短波長光源として、アト秒パルスの発生に関連して大きく注目されている。高調波は時空間コヒーレンスを持つため、XUV・軟X線の高光電場を生成することができる。そのような場を生成するためには、光のパルスは大きいパルスエネルギーと短い持続時間を兼ね備えた高調波パルスを発生しなくてはならない。我々は、持続時間10フェムト秒以下の青いレーザーパルスを用い、比較的低い次数(9次)の大きな双極子モーメントをアト秒オーダーの短時間に非断熱的に作り出すことにより、単一の高調波成分(光子エネルギー27.9eV)から強い時間的に孤立したパルスを作ることに成功した。持続時間950アト秒および1.3フェムト秒のXUVパルスは、非線形化粧を引き起こす世界最短パルスであり、ヘリウム原子の2光子超閾イオン化に基づく自己相関法によって測定した。超閾イオン化過程の断面積は小さいため、ヘリウムのイオン化エネルギーより大きい光子エネルギーを持つXUVパルスの自己相関測定は今まで行われたことがなく、今回実現した高調波発生法により始めて可能となった。自己相関法は、可視域レーザーパルスの測定に通常用いられる方法であるが、超閾イオン化に注目することでさらに短い波長領域の高次高調波の測定に拡張することができ、高次高調波パルスの計測も同じ土俵で行うことができるようになる。これまでは、数サイクルパルスを用いて光の周期の半サイクル間に高調波を発生させてアト秒パルスを生成していたため、パルスエネルギーが小さかった。そのため、自己相関測定は不可能であり、パルス評価は大きく物理モデルに依存していた。また、超短パルスレーザーを使った時間分解分光では、ポンプ・プローブ法が広く用いられる。光励起後(ポンプ)の物質の透過率変化などをプローブパルスで検出する方法である。自己相関測定は、見方を変えれば、ポンプ・プローブ光共に同一パルスを用い、物質の応答時間がパルス幅に比べ瞬時的な現象を時間分解した、最も単純なポンプ・プローブ分光である。極端に言えば、自己相関測定のための実験系において、ヘリウムを他の試料に置き換えるだけで、極端紫外光で励起後の物質の電子状態を光電子分光により明らかにすることができる。その意味で今回実演した自己相関測定は汎用性の高い方法である
講演2:レーザーの周波数制御と光シンセサイザー
  洪 鋒雷(産総研)
  レーザーは誕生当初からコヒーレンスの良さが特色とされていた。しかし、実際には機械、熱及び音響などの影響により、レーザーの周波数安定度が高分解能分光、精密光学計測などの応用には十分高いとは言えない場合が多い。レーザー周波数の制御技術はレーザー誕生の当初から研究され、今日まで様々な発展を遂げてきた*1。また近年、超短パルスモード同期レーザーの周波数制御が可能となり*2, 3、レーザーの周波数・時間の極限における研究に大きなインパクトを与えている。
  レーザーの周波数特性を表すのに、線幅、ジッター及びドリフトの三つのパラメーターがよく使われる。この三つのパラメーターは異なる時間領域での周波数変動を表すもので、通常線幅はミリ秒、ジッターは秒、ドリフトは時間あるいは日単位での周波数変動を表している。例えば、モノリシック構造の共振器をもつNd:YAGレーザーのフリー・ランニング状態での線幅は5 kHz、ジッターは1 MHz以下で、ドリフトは約数十MHzである。このレーザーを用いて、ヨウ素分子の飽和吸収分光を行い、得られたヨウ素分子吸収線の超微細構造にレーザー周波数安定化を行うことにより、ジッターは30 Hz以下に、またドリフトは5 Hz程度に向上できた*4。また、高フィネスファブリペロー共振器を用いることにより、このレーザーの線幅を1 Hz以下に制御することに成功している*5。レーザーの周波数安定化は、分子定数を精度良く求める上でも大いに役に立っている*6
  周波数安定化レーザーの性能向上及び応用拡大は、その絶対周波数測定のニーズを高めた。絶対周波数測定とは、マイクロ波領域にあるセシウム周波数標準を基準にレーザーの周波数を測ることである。絶対周波数測定の研究において、超短パルスモード同期レーザーが主役的な役割を果たしている。モード同期レーザーは、周波数軸上でみると、位相の合ったたくさんの縦モードからなっている。イメージ的には周波数の定規で、光コムと呼ばれている。超短パルスの時間軸上の特性と光コムの周波数軸上の特性との間にフーリエ変換の関係が成り立つ。超短パルスモード同期レーザーに周波数制御を施すことにより、レーザーの絶対周波数測定が可能となった*2, 3。産総研では、モード同期のTi:sapphireレーザー及びファイバーレーザーを用いて光コムを開発し、可視から近赤外にかけて周波数測定を行っている*7。また東大と共同で、究極の安定化レーザーである「Sr格子時計」*8の絶対周波数測定も行っている。周波数制御された光コムは、光領域の周波数シンセサイザーであり、原子・分子物理の発展に大きく寄与するものと考える。また、周波数制御はレーザーパルスの制御に応用され、超短パルスレーザー物理の発展にも大きく貢献している。

*1 J. L. Hall, IEEE J. Selected Topics in Quantum Electron. 6, 1136 (2000).
*2 Th. Udem, J. Reichert, R. Holzwarth, T. W. Haensch, Phys. Rev. Lett. 82, 3568 (1999).
*3 D. J. Jones, S. A. Diddams, J. K. Ranka, A. Stentz, R. S. Windeler, J. L. Hall, S. T. Cundiff, Science 288, 635 (2000).
*4 F.-L. Hong, J. Ishikawa, Y. Zhang, R. Guo, A. Onae, H. Matsumoto, Opt. Commun. 235, 377 (2004).
*5 S. A. Webster, M. Oxborrow, P. Gill, Opt. Lett. 29, 1497 (2004).
*6 F.-L. Hong, J. Ye, L.-S. Ma, S. Picard, Ch.J. Borde, J.L. Hall, J. Opt. Am. B 18, 379 (2001).
*7 F. -L. Hong, A. Onae, J. Jiang, R. Guo, H. Inaba, K. Minoshima, T. R. Schibli, H. Matsumoto, K. Nakagawa, Opt. Lett. 28, 2324 (2003).
*8 M. Takamoto and H. Katori, Phys. Rev. Lett. 91, 223001 (2003)

 
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第2日目 平成17年6月19日(日)
 
セッション4.「可視光で探る生体分子動態」
ディスカッションリーダー:宮脇 敦史(理研)
  今生物学はポストゲノム時代に突入したと言われる。生体分子が生きた細胞の中でどのように振舞うかを可視化することが求められている。生体分子の示す動的な振る舞いは、細胞の増殖、分化、ガン化の機序を知る上で重要であり、特に創薬産業の領域で注目されている。ポストゲノムプロジェクトを云々するに、より実際的な意味において、細胞内シグナル伝達系を記述するための同時観測可能なパラメータをどんどん増やす試みが重要である。細胞は精密であると同時に非常に柔らかい機械である。そうした細胞の心をつかむためのスパイ分子を蛍光色素(蛍光タンパク質)を材料にして開発することができる。新しい蛍光タンパク質が、様々な生き物(主に刺胞動物)からクローニングされつつある。蛍光の様々な物理特性を、蛍光タンパク質から引き出して、新しいスタイルのイメージング技術を開発することが期待される。2002年以降、蛍光イメージングに、「光で操作する技術」が盛り込まれてきた。この技術により、生体分子の運搬・拡散を定量的に測定することが可能になる。いずれ、局所的な刺激に対してシグナルがいかに発生して時空間的に細胞内を広がっていくかを記述できるようなシミュレーションがさかんになるであろう。細胞内シグナル伝達に関してこれまで報告されているシミュレーションは、ほとんどが時間に関する連立微分方程式で、シグナルの均一分布を仮定したものとなっている。偏微分にもっていくためのデータがあまりにも乏しい。少なくとも、シグナルの拡がりが、反応によるのか(reaction-limited)、それとも拡散によるのか(diffusion-limited)を区別したいと思う。最近では、異なる2つの波長の光で蛍光をオン・オフできるフォトクロミック蛍光タンパク質が開発され、書き換え可能な分子メモリー技術の作製に至っている。これを細胞生物学に応用すると、時間とともに変化する生体分子動態の様相を掘り下げることができる。さらにフォトクロミック蛍光タンパク質を利用して、光学顕微鏡の空間分解能回折限界を打ち破ることが期待されている。蛍光のイメージングによって、細胞内外の情報伝達機構に関するわれわれの理解がいかに深まりつつあるかを議論したい。
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講演1:1分子蛍光イメージング法による生体分子機能解析
  船津 高志(東大薬)
  ゲノムの塩基配列が決められ、次の課題として残ったのは、実際に発現しているタンパク質の機能と、タンパク質間相互作用を明らかにすることである。1分子蛍光イメージング法は、これらの問題を解く基盤技術を提供すると期待されている。本講演では、1分子蛍光イメージング法による蛋白質機能解析の応用例として、シャペロニンGroELによる蛋白質折りたたみ機構の研究を紹介する。それぞれ異なる蛍光色素で標識したGroELとGroESの結合・解離の様子や、GroEL内部で変性GFPが折りたたむ様子を1分子イメージングすることにより、シャペロニン反応が2つの律速過程から成り、変性蛋白質をGroEL内部に落とし込むための巧妙な機構を有していることが明らかになった*1。
次に、生体分子間相互作用のネットワーク解析を行うための2つの技術開発を紹介する。
1.超分子複合体を分離・回収し、生体分子間相互作用を分析的に解析する技術
生体分子や超分子複合体をガラスマイクロチップ内の微小流路(入り口が1つ、出口が2つの流路、流路幅30μm、深さ5μm)に流し、個々の標的分子を高感度に検出しながら、物理的に分離・回収した。このために、キャリア溶液に、37°Cを境に高温でゲル、低温でゾルと可逆的な相転移を起こす熱感受性ハイドロゲルを加え、生体試料とともに微小流路に流した。単離すべき超分子複合体の構成蛋白質の一つをGFPで蛍光標識しておき、それらが発する蛍光を高感度に検出した。赤外レーザーの局所加熱によって分岐した流路の一方にゲルによる栓(ゲルバルブ)を形成させ、GFPの蛍光を検出するとミリ秒の時間分解能で流れを切り替えることにより超分子複合体を分離した。高純度の超分子複合体を得ることにより構成成分を解析することが可能になった*2。
2.ナノ開口を用いて弱い生体分子間相互作用を1分子レベルで構成的に解析する技術
半導体微細加工技術を用いてカバーガラスに金属薄膜を蒸着し、直径約100 nmのナノ開口を作製する。これにレーザー光を照射してエバネッセント場を局所的に発生させることにより、従来では不可能だった解離定数が数μMの弱い相互作用も1分子レベルで検出可能にした。
両者の技術を組み合わせることにより、蛋白質間相互作用の解析技術を飛躍的に向上させることができると期待される。

*1 T. Ueno et al., Molecular Cell, 14: 423-434 (2004)
*2 Y. Shirasaki et al., Micro Total Analysis System 2002, pp.925-927 (2002)

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講演2:光照射による蛋白質機能阻害法
  竹居 光太郎(横浜市大医)
  ポストゲノム時代を迎えた今日、網羅的な蛋白質機能解析(Functional Genomics/Proteome)が精力的に始められている。蛋白質の機能には、酵素反応やリガンド-受容体結合などの「生化学的機能」と、発生・老化や脳機能などの「生物学的機能」の2つの側面がある。後者の高次の生命現象を担う蛋白質機能の解析では、特定分子の欠損あるいは不活性化させる技術が最も有効な研究手段であると考えられるが、蛋白質の生物学的機能解析において重要なことは、(1)生細胞や生体で解析すること、(2)蛋白質の生体内ダイナミクスを時系列的に解析すること、(3)生理現象との関連性を時空間的に解析することである。即ち、分子機能が実際に発揮される時間と場所で解析を行うことが非常に重要で、時空間的分解能を有する蛋白質機能阻害技術が必須となる。
レーザー分子不活性化法(Chromophore-assisted laser inactivation:CALI)は特定子の時空間的な不活性化を実現させ得る研究方法として近年登場し、細胞や生体の局所領域や急性的な分子機能解析に功を奏するアプローチを提供している。CALI法とは、マラカイトグリーン色素(MG色素)を化学的に標識した抗体(またはリガンド)が目的の標的分子と特異的に結合した状態でレーザー光(中心波長:620nm)を受けるとMG色素の発色団からラジカルが発生し、そのラジカルによって標的分子の構造変化を誘起して結果的に標的分子の機能を不活性化するというものである。最近、MG色素の代わりにFluorescein isothiocyanate(FITC)蛍光色素の色素団から産生する一重項酸素を利用したFluorophore-assisted light inactivation (FALI)や緑色蛍光蛋白質Green fluorescence protein(GFP)を用いて融合蛋白質の機能阻害を誘起するGFP-CALI法、特有の塩基配列に特異的に吸着する蛍光色素FlAsHまたはReAsHを用いてその塩基配列に融合した蛋白質だけを光照射で不活性するFlAsH- またはReAsH-CALI法、また標的を蛋白質のみならずmRNAに据えて行うRNA-CALI法など、CALI法の原理に基づく新たな応用技術が次々と報告され、この研究方法の新しい展開や広汎用性に多くの期待が集まっている。本講演では、CALI法およびその改変法を紹介し、演者が行った神経細胞における分子機能解析に用いた適用実績例を示しながら、この技術の展望について議論する。
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セッション5.「周期場と粒子ビーム」
ディスカッションリーダー:東 俊行(首都大学東京)
  「光」とは、電磁波、すなわち時間的に振動する周期電磁場である。「原子」はこの光を吸収することによって特定準位間を共鳴的に遷移するが、発想を転換して、周期的静電磁場を通過する原子を考えると何が起こるのか? 実験室系から重心系に座標変換して眺めれば、原子は次々と向かってくる振動電磁場を感じる。この振動数に対応する「擬似光子」のエネルギーが原子の内部構造の励起エネルギーと一致すれば、やはり共鳴的な励起が期待され、コヒーレント共鳴励起あるいはオコロコフ効果と呼ばれている。この「擬似光子」は、本来の「光」と比較して数多くの特徴を備えているのみならず、現象は原子の並進エネルギーを、内部自由度(例えば電子励起)に移す(つまり共鳴によって原子は減速する)という興味深い一面をもつ。このような原子操作は、非常に特徴的でありながら普遍的な物理現象である。
  実験的研究は、従来結晶中を通過する高速イオンを使って展開されていたが、最近ではイオンの高エネルギー化によって、原理的検証段階から完全に分光的なレベルに到達した。また、全く新しいアプローチとして低速の熱アルカリ原子を用いて周期的静磁場による磁気共鳴励起もごく最近実証された。これは円偏光レーザーを用いてRb原子のスピン偏極信号を観測するものでああり、その量子光学的手法は高検出感度であるとともに、共鳴ダイナミックスの研究に適した系である。
  一方で構造を持たない電子が周期磁場中を通過したときにおこる顕著なコヒーレント現象は、アンジュレータによる「光」放射である。これはまさしく軌道を曲げられた電子が放射する光が干渉しあうことによって達成される高強度かつ強力な指向性を持った光源である。今や、我々はX線FELを自由に使える段階に到達しようとしている。
  本セッションでは、ディスカッションリーダーの展開してきた、Åオーダーの結晶電場配列による、数10GeVの高速多価重イオン励起の話に加えて、2人の研究者をお招きし、mmオーダーの磁場配列によって熱速度の中性アルカリ原子を励起しその速度までを制御しようとする試みや、cmオーダーの磁場配列と数100MeVの低エミッタンス電子ビームを駆使したアンジュレータを駆使したX線FELについて、その応用の可能性を含めて紹介していただく。取り扱う空間スケールやエネルギーは極めて大きな範囲をカバーしており、活躍されている専門分野も多岐にわたる。しかしながら、扱う物理現象は関連が深く相補的であり、刺激的かつユニークな議論の中からより新しい展開が繰り広げられると期待する。
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講演1:周期静磁場での運動誘起共鳴
  畠山 温(東大院総文)
  原子の状態を詳細に調べ、また制御するということは、原子物理学の普遍的な中心課題である。内部状態の精密な研究には、RF、マイクロ波、レーザーなどのコヒーレンスの良い電磁波が大きな役割を果たしてきて、現在でも基本的な道具として様々な場面で使われている。最近では、レーザー冷却技術に代表されるように、電磁波で原子の運動状態も制御できるようになった。また、例えば光定在波を用いて、原子波をコヒーレントに分けるような技術も実用化され、原子波光学という新しい分野は著しい発展を遂げている。
  時間・空間的周期性をもつ電磁波の利用の一方で、空間周期性をもつ構造物も、電磁波にはない利点があり、原子の制御では重要な役割を果たしてきた。例えば、80年代後半の回折格子をもちいた原子波の干渉実験は、原子波光学の初期の重要な一ステップであった。また、表面の周期磁化を利用した原子の磁気ミラーは、光のエバネッセント波を利用したミラーに比べ、安定で大面積のミラーを容易に作ることができることなどから、活発な研究がされている。さらに、原子波のコヒーレントな反射である量子反射の最近の研究では、周期的な尾根(ridge)構造を施した固体表面で高い反射率を達成している。これらの研究は、最近の微細加工技術や磁気記録技術の進歩とあいまってよりいっそう発展の余地があり、電磁波と相補的な役割を果たしていくと考えられる。
  今回は、この人工的な静周期場を使って、運動状態だけでなく内部状態の制御を、しかもコヒーレントに行おう、という始まったばかりの我々の実験の紹介をしたい。実験では、室温程度の速度(v〜150 m/s)を持つルビジウム原子が、交互に逆向きの電流が流れる平行な導線列で作られた周期的な磁場(周期a〜1 mm)を横切るときに、ゼーマン副準位間で共鳴的に磁気的遷移が起こることが観測された。共鳴条件は、準位間隔がv/aで決まる周波数(〜150 kHz)に一致することである。この研究は、同様の原理で起こるコヒーレント共鳴励起という現象との比較という点でも興味深い。この現象は、主に高速イオンビームを結晶中に通すという方法で活発に研究されてきた。このシステムに比べ、原理の基本的性質の検証に関して、より操作性に富んだ本実験が有用であるとも期待できる。
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講演2:X線自由電子レーザー
  新竹 積(理研播磨)
  理研播磨研究所では、X線レーザーの技術開発を行っており、その試験加速器を本年度中に建設し試験発振を行う予定である。これは新しい形式の自由電子レーザーであり、空間、時間的にコヒーレントな硬X線源として、世界的に注目されていSASE(Self-Amplified Spontaneous Emission 自己増幅型レーザー)であり、その実現が米国SLAC研究所LCLS計画、ドイツDESY研究所のEuropean XFEL、韓国PALのXFELと国際競争となっている。
  従来の自由電子レーザー(FEL)と原理が異なり、共振器ミラーを使用しないため、ミラー材料の波長制限がなく、X線領域のレーザーが可能となる。しかし、これには非常に長いアンジュレータが必要とされる。つまりSASEでは、従来の共振器型のレーザーにおいて、光が何往復もして増幅された時の走行距離に等しい長さのアンジュレータを使用する。このため、次のような技術が必要となる。
  1. 長いアンジュレータを高精度に製造、磁場調整する技術
  2. 長いアンジュレータ区間の中を、まっすぐに電子ビームを走らせるビーム制
    御技術、高精度ビーム位置モニター、機器のアライメント技術
  3. 発散の非常に小さな電子ビーム(極低エミッタンス電子ビームの発生と加速
    技術)
  2002年度より理研播磨研究所にて上記の核となる技術の研究開発を行い最近になって各コンポーネントごとには要求性能が満足されるようになった。そこで、本年度までに、上記の新技術を取り入れて250 MeVの加速器を建設し、実証試験を行う予定である。最短波長は 60 nmが目標である。この成否を見て、本計画のX線FELの建設を実施に移したい。目標波長は 1Åである。これが実現すれば、究極として、コヒーレントX線の散乱によるイメージングにより、単分子のたんぱく質の構造が解析でき、また、フェムト秒の時間分解能をもつ、ダイナミック現象の解析が行われるようになると期待される。
 
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